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2012年02月

2012/02/04

クリスマス

荘太はぶるんとかぶりを振った。荘太の中にいるさなえは、ずっと生き続けている。20年あまりずっと呼吸している。上の階の親しかった旦那から届いた賀状のことを思い出す。その後、春利の就職が決まり団地を引き払って転居したことも同じ旦那からの賀状で知った。

数日前にも少ない数ではあったが荘太は賀状をポストへ投函した。その中には、荘太が家族で住んでいた団地の旦那宛のものもあった。荘太も賀状だけは必ず出していたので、電車の運転手を続けている上の階の旦那も最低限の情報は知らせてくれた。

それにしても、荘太より6歳年上だったとはいえ、看護師をしていて気丈だったさなえが心臓の病気であっけなく亡くなってしまったことがいまだに嘘のように思われる。

荘太はさなえに追い出される格好で家を出たが、その後誰とも一緒に住みたいとは思わなかった。そんな生活力はないことを自覚した。それが自らに与えられた道だと思った。生活力が希薄で依存心が強い荘太に神が与えた試練なのかもしれない。それ以上誤った生き方をするべきではないと自らに言い聞かせた。

子供同士が遊び友達だったことがきっかけで運転手の旦那と親しくなったが、それが縁で妻と息子についての最低限の情報が得られたことはありがたいと思った。
「桑田さんに知らせて良いものか・・」と彼が書いてきた賀状の言葉を荘太はふたたび思い出す。

遅い朝食を済ませて食器を洗い終えた。10時半になるところだった。

と、その時、点けっぱなしで画面が節電モードに変わっていたノートパソコンが突然鳴り出した。


To Be Continued

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2012/02/07

クリスマス

電話のコール音とも違う小刻みに震えるような音だった。ノートパソコンは立ち上げたままになっていた。

桑田はスカイプを設定したことを思い出し、挿しこみ口を確認した。USBヘッドセットはすぐそばの小さなテーブルにあった。

「あっ、桑田さん。サト子。クリスマスおめでとう」

サト子の鼻から下が桑田のパソコン画面に映し出され、桑田自身の顔が画面の右下に小さく出ていた。

「ああ、クリスマスおめでとう。メールでスカイプの設定したことを送っておいたけど読んだんだ」

「そうよ。桑田さん、桑田さんのお父さんのようね」

「だって、もう60過ぎてるんだよ。あなたの方、カメラをもう少し上向きにして」
桑田は画像を観ながら数回上げ下げを指示した。サト子の記憶の中に生きている桑田は、神学部の学生の頃のものが強いのだろう。

「サト子さんあなただって、気持ちは若いかもしれないけど、すっかりおばあさんだよ」

「気持ちはね。今、ロバートは家族に会いに行っていていないから」

桑田はパソコンの画面に表示されているデジタル時計の数字を見た。こちらは午前10時半。フロリダは、夜の8時半だった。前の彼と別れ、ロバートとは10年くらい同居していると聞いたが、ロバートはクリスマスだから家族に会いに行ったのか。互いに、個人の自由を認め合い深くは干渉しないと言っていたが。

桑田荘太は、アメリカという国について考えた。ロバートには子供は4人いると聞いたが、子供たちが独立したり成人してから、妻と別れサト子の持家に来て同居している彼のことが分からなかった。75%が再婚をするからそれが普通だと聞いても、荘太にはピンとこなかった。最初に結婚した相手と一生連れ添う夫婦の方が少ないのか。

「先ほど食事を終えて片づけも済んだから大丈夫だよ」話しを続けて良いかとサト子は訊いてきた。

「桑田さんは自分で食事を作るのね。私なんかちょこちょこ食べるだけで、ちゃんとしたものは作らないわ」

「だって、もう20年以上一人でやっているんだよ」

「奥さんはどうしているの?」


To Be Continued

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2012/02/17

クリスマス

「別れたことは確か10年以上前にエアメールで送ったと思ったけど・・」

「ああ、そうだったの。あの頃、私の方も前の彼とのことで気持ちがおかしくなっていたから忘れていたわ。彼は薬中で、すぐ別れることが出来なかったから」

「そうだったんだ」

「それじゃあ、桑田さんはずっと一人で・・」

「そう、その後、別れた家内は心臓の病気で亡くなった」
荘太はそう言いながら、元妻・さなえが亡くなったという実感がなかったが、サト子にはそれ以上言えなかった。

「そうだったの。一人じゃさみしいわね」

「私は、こうなるようになっていたのかな」

「お子さんがいるって言ってなかった?」

「男の子が一人」

「会っていないの?」

「そう、名古屋の方で会社勤めしているようだけど」
その時男の低い声が荘太のイヤホーンに届いた。

「彼が呼んでいるんじゃないの?」

「違う、誰かが勝手にアクセスしてきているのよ」
荘太は、ロバートは家族に会いに行っているってサト子が言ったことを思い出す。

「スカイプだから、ネット上から勝手に探して言ってきているんだね」

「ほっておけばいいのね」


To Be Continued

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2012/02/29

年末年始

年末年始休みに入る前日、春利は来未にメールを送った。営業で外に出ていたから、昼食に入った中華料理店からだった。すぐ返信メールが入った。来未も昼食が終わったくらいだったに違いない。

帰社するまでには読んで欲しいと思った。このところ仕事に追われ、年末年始休みをどうするか訊きそびれていた。

休みに入る日の29日に生家の会津若松に帰るという。

春利は帰るといっても親がいないことを思い一瞬さみしくなった。両親は家にいるだろうが、2年前に離婚したという姉はいるのだろうかと思った。

春利は、帰省する前に一度会えないかとすぐにメールを打った。もう一社回るところがあったので、レジへ急いだ。来未が退社する前に連絡が取れれば外で会うこともできると思った。

返事は営業が終わってから知りたいと思い携帯は見ないようにした。
建設会社のビルを出て駅に向かう通りで携帯を開いた。

会社の友達とお茶する約束があるので、少し遅くなって良ければというメールが入っていた。時間を見ると退社時間を過ぎていた。電話しようかと思った。が、会社の友達と言っても一人ではないかもしれないから、知られると都合が悪いこともあるかもしれないと思いメールにした。

帰社してタイムカードを押し表に出た。その時携帯が鳴った。

来未は、あおなみ線の駅から500メートルくらいのところにある店を指定してきた。来未の借りているマンションがある駅の一つ手前の駅だった。

オッケーしてから、その方が良いかもしれないと改めて思った。来未の家には行かない方が良い。来未もそのことを察したに違いないと春利は思った。


To Be Continued

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