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2012年03月

2012/03/11

年末年始

春利は、出入り口に近い辺りに立っていた。年末のせわしなさがないと言えば嘘になった。来未と付き合うようになってからあおなみ線の利用が増えていたが、会社の者に出合うことはなかった。というより車内で周囲をあまり見ないようにした。こちらが気づかなくても向こうは見かけているかもしれないとも思った。

次だったなと思った時、ポケットの携帯が気になった。手に触ったついでにちょっと開いてみた。用もないSNSのメールの下に来未からのものがあった。

「ごめん、約束したお店に来て気づいたんだけど、あのファミリーレストラン5時までだった。それでそこよりも駅に近い・・」

改札を出た春利はすぐコールした。

電話に出た来未は、今お店に着いたところだと弾んで言った。場所は名古屋港に続いている川のそばだというので辺りは暗くなっていたがさほど迷うことなくたどり着けた。

「このお店、私の家から歩いても8分くらいよ」春利がテーブルの側まで行った時来未が笑みを浮かべて言った。

「じゃあ、よく来ているの?」

「うん、3回くらいかな。午前11時から夜の11時までやっているみたいね」

「じゃあ、ゆっくりできるね」

「私、明日の昼頃の電車で帰るわ」

「あそう。お姉さんも?」

「姉は、今は伯父さんがやっている会社の経理をやっているとか。家から通っているのよ」

「じゃあ、家族みんな集まって団らん出来るんだね」

「沢さんは、一人だからさみしいわね。私と一緒に行く?」

来未は笑いながら言った。

「そうだね。そのうちにね・・」


To Be Continued

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2012/03/16

年末年始

春利は、そのカフェでその年最後の夕食を来未と一緒に過ごすことが出来た。

春利はビザで来未はパスタ、それに日本製の瓶ビールを二人で分けて飲んだ。
翌日から年末年始の休みに入る。その間は会社でも社外でも来未とは会うことが出来ない。

「休み中、メールか電話しようか?」
食事が終わった時、来未が笑みを浮かべて言った。

「僕の方は一人だからいつでも良いけど、来未ちゃんは都合が悪いこともあるかもしれないから、都合の良いときで良いよ。それとも、僕の方から先ずメールしようか?」

「そうね、私、適当なときにメール入れてみるわ」

「じゃあ、僕もそうするよ。メールだとどちらが先でも良いからね」
来未は頷き、二人は立ち上がった。

「じゃあ、今日はここで」
あおなみ線の駅まで一緒に歩き、二人は逆方向の電車に乗るため別れた。

名古屋駅行きの車内で、春利はその日外回りの営業から会社に戻った時、帰り際に課長から言われたことを思い出した。
来未には言わなかったが、「まだほかの社員には言わないでほしいが、年明けにはっきりするが2月に沢君上海へ転勤になるかもしれない」と言われたのだった。「君は電気に詳しいし適任だと思うんだ」と。

名古屋で地下鉄東山線に乗り換えた時、春利は急に父・荘太に会いたいと思った。国立大学の工学部で電気工学をやり、会社員になった。セールスエンジニアとしてそれなりに人との出会いを経験した今なら、幼い時に別れた父に会うことが出来るのではないのだろうか。籍が違っても、血がつながっているのだから、たとえ父がどういう生活をしていても、会いたい。兄弟がいればまた違っていたかもしれないが、母が亡くなってしまった今では、何をおいても父を探そうという思いが強く湧き上ってきた。


To Be Continued

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2012/03/25

新横浜駅前公園

桑田荘太は小田急で町田に出て横浜線に乗り換えた。ドアが開き、出入り口に近いところに座っていた乗客が降りて行った場所に桑田は座った。

師走の31日だが車内の席は半分以上埋まっていた。電車に乗ろうと思うと、東京方面ではなく横浜へ向かうことが多かった。

新横浜で降りるとスタジアム(横浜国際総合競技場)の方へ自然と足が向かった。鳥山川のこちら側が新横浜駅前公園で川向うのスタジアム周辺が新横浜公園と呼ばれているが、視界が開けた中央に円形のスタジアムが浮かび上がっている。

いつもメガネを掛けている桑田だが、数年前からアイボリーのキャップを被るようになった。冬場は羽毛入りの黒いジャンパーを着て外出することが多い。10年も前に買ったそれをその日も着ていた。60代になってからは毎冬毛糸の手袋も欠かせない。

桑田は鳥山川に沿って続く広い歩道に出た。自転車が通り過ぎ、犬を連れた若い女の子が向こうからやってくる。師走のおおつもごりと言えども愛犬の散歩は誰かがしなければならないから、公園を散歩すると必ず彼らに出会った。

川側にはミッドナイトブルー色に塗られた金属製のフェンスがつづき、反対側の公園には桜やドングリの実がなるブナ科の樹木や灌木がある。道沿いに木製のベンチが並び、アメリカンスィートガムの実が落ちている。

桑田は汚れの少ないベンチで一休みしようと思った。近くの一つに男が一人座っていたが、善良そうに見えたので隣のベンチに座った。

すると、道の向こう側の平行して延びているポールの下に一匹の猫が現れた。川の土手の下の草むらにいたのだろう。丸く肥えていて白い毛のところどころに黒い部分のあるぶち猫だった。

隣のベンチの男はしばらくぶち猫を見ていたが、何か声を発して立ち上がり猫の側に行くとしゃがんだ。手に持っていた白いビニールの手提げ袋から模様のついた小さな袋を取出し、封を切るとコンクリートの表面を手で拭い、袋を逆さにして中身をふって出した。

猫は散乱した小さな固形物を口と舌で上手に吸い取っていった。


To Be Continued

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2012/03/31

新横浜駅前公園

桑田は来る途中「猫にエサをあげないでください」と看板が立っていたことを思い出す。コンクリートの上に撒かれた粒を次つぎと吸い取ってゆく猫を見ていると、じゃあここに捨てられた猫たちはどうやって生きて行けばいいのか、公園内に猫たちの空腹を満たすエサがあるのだろうかなどと桑田は思う。

悪いのはここに猫を捨てに来た人ではないのか。

10メートルほど離れたフェンスの下に三毛猫が現れたが、警戒して近寄っては来ない。

「お宅はこの辺によく来ますか?」
桑田は戻ってきて隣のベンチに座った男の方へ言った。

「俺は、この向こうの、生活保護の住宅に住んでいるんだ。こんなのいくらのもんでもねえから、週に1回か2回来るんだ。ふだんはいつも餌をやりに来るおばさんがいるんだ」

「毎日来るのでしょうか?」

「そう、今日はどうかな」

確かに、31日だと家族がいる人だといろいろと忙しい日だから、来ないかもしれないな、と桑田は思う。

「お宅は前からそこに住んでいるんですか?」

「俺はここへ来る前は千葉の方に住んでいたが、1年前ほど前にこっちへ来て仕事探していたが、胆石になってあそこに入院したんだ」

男はみぞおちの辺にちょっと手を当て、視線は川の向こうへ向かっていた。スタジアムのずっと右の方に労災病院の名前が建物の上に大きく出ているのですぐにそれと分かる。

「じゃあ今でも通ってるんですか?」

「いやもう大丈夫。それで仕事探しているんだ。65とかなれば言われないけど、仕事探してるかチェックされるから」

「生活保護は、受けるにはいろいろと大変だったでしょう」

「それは、銀行口座から何からぜんぶ。・・いろいろ引かれると月4万くらいかな残るのは」

「お風呂もあるんですか?」

「共同風呂がね」

「食事もお風呂もあるんだと良いですね」

「まあね、ただ、こっちへ来て見て、車の免許もないんじゃなかなか仕事がね」

男は50代後半だろうか。いろいろ引かれて4万円手元に残るんだと桑田の年金より多いが、どんなボロにせよ持家もないし貯金もなくて仕事を探しているんじゃ大変だと男の横顔を見る。

ばら撒かれた餌を食べ終え、舌をペロペロやっているぶち猫の側へレギンスの似合う若い女の子がやってきてしゃがんだ。


To Be Continued

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