eye

2014年11月

2014/11/02

世界の向こう

御薗橋を渡っていけば上賀茂神社がある。ミナの脳裏にほぼ一年前のことがよみがえった。

朱色の一の鳥居をくぐり、告げられた通り二の鳥居に向かって歩いていった時、突然光の窓が現れ、中に入った瞬間に上賀茂神社の上空のような空間にいた。そこで来未と春海に出会った。下方に神社の屋根やゴルフ場の緑が見えたけど、私の行った所は別の空間だったのだろうか。移動する前の斎王桜も鮮明に記憶に残っている。

西加茂橋に近づいた頃、そろそろ引き返した方が良いかな、とミナはカナの方を見た。カナは堰か段差の辺りに視線を向けている。川幅自体はとても広く取られているが、緑に色づいた中州があちこちに広がっている。

先ほどジョギングの青年が二人の歩く同じ遊歩道を下って行ったが、周囲に目をやっても歩く人の姿が見当たらない。上空には白い竜のような雲が幾重にもおおっている。そういえば、カモやサギやほかの小鳥たちの姿も見えない。

と、段差を落ちる賀茂川の水音に交じり、何か金属音のようなかすかに唸る音が聞こえたような気がする。

「先生」カナが声を上げたのと同時に、二人は上空を仰いでいた。

ミナはカナの手を握った。姿は見えないがキュンキュンという音が確認できた。

「カナさん、大丈夫よ。彼らに違いないわ」カナの手がしっかりと握り返してきた。

「きっと防御スクリーンで被っていると思うわ」

次の瞬間、二人は眩しさのあまり思わず顔をそむけた。が、同時に身体が遊歩道から宙に浮き始め、上の方へと引き込まれていった。

To Be Continued

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2014/11/05

世界の向こう

気づいた時、二人は彼らの乗り物の中にいた。六畳間くらいだろうか。そばにはグルグル巻きにしたコイルのようなものが透明なカバーの中にあった。

「こわがることはない。われわれは、初めてではない。そこの席へすわりなさい」ミナとカナよりも背が低く、つりあがった大きな目をした生き物から直接二人に伝わって来た。呆然としていたミナの意識が戻ってきた。宇宙服を着ているんだ、と灰色に被われた相手を見下ろしてミナは思った。カナはまだ意識が遠くにあるようで床に崩れ落ちそうになっている。

カナの手を取り、並んでいる席に二人は座った。窓と思われる前方にもう一人の生き物が座っている。乗り物を操縦しているのだろうか。窓の向こうには賀茂川も街並みも何も見えなかった。

「私はキミにはいくども会っている」ミナにふたたび相手の思いが伝わって来たが、以前会ったと言われても大きな目の印象は鮮明に残っていたが、似たような姿しか記憶に残っていない。

カナがそばに立っている生き物の方を見ている。キミにに会うのは二度目だと言っている。姿かたちでは分からないが、やっぱり同じエイリアンなんだとミナは思う。相手は、こちらが声に出さなくても人間の思っていることが分かっているようだ。おそろしい。

「これから二人をマーズへ案内しよう。そこのベルトを・・」相手の手がカナのベルトをセットし始めた。カナはふるえている。この機内には酸素があるんだ、とミナは初めて気づく。カナに目で合図する。今度はミナのベルトをセットしにきた。

「なぜ私たちをマーズへ?」

「われわれのことを一般の地球人にも知らせたいのだ」エイリアンの大きな目がミナを見ている。

「火星には空気も地球のようにはないから、人間は酸素マスクや宇宙服を着けないとダメでしょう」

「マーズの上空に案内するが、この乗り物から外には出ないからだいじょうぶだ」

エイリアンは前方のもう一人のエイリアンがいる操縦席のような所へ移動した。床の下には、さまざまな装置があるのだろう、とミナは足下に目をやる。カナの不安そうな視線がゆれている。窓の向こうには何も見えない。どれくらいの速度で火星へ向かっているのか見当もつかない。

生きて地球へ帰してもらえるだろうか、ほんとうに無事で・・。カナの目に涙が浮かんでいる。

To Be Continued

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2014/11/06

世界の向こう

「カナには何もしなかったから大丈夫。わたしが止めたのだ。人体実験はなにもほどこしていない。キミたちを悪いようにはしない。おわびと言ってはなんだが、こうしてマーズへキミたちを案内しているのだ」

エイリアンはカナの不安を察しているのだろう。カナはそれでも不安におびえている。

「私たちを無事に地球へ帰してくれるんですね」ミナが初めて声に出して言った。

「もちろんだ。心配いらない」

ミナは少し安心してカナの方を見た。

「カナ、信じましょう」

「ミナの教え子に悪いことはしない。私たちを信じなさい」

「ありがとう」ミナはエイリアンの背中に向けて言った。それにしても、この乗り物はどの空間を飛んでいるのだろう。窓の向こうはかつて経験したことのない空間が存在しているようだ。ミナはカナに見えるよう腕時計を示した。カナに伝わったのだろう、ミナの方に腕を向けた。二人の時計は午後3時16分で停まっている。この乗り物に乗せられてから、地球時間でどれくらいの時間がたったか分からない。

「まもなく、マーズの上空へ出る。足下の床からモニターカメラを出して、その画像を映し出すから」

「もう、マーズへ?」

「地球人の乗り物とは違う」

エイリアンの返事が来たのと同時に、床から四角な物が上がって来て膝の上あたりで止まった。

エイリアンが言うとおり、球形をした赤茶色の星が画面に映しだされた。赤茶色の大地がどんどん近づいてくる。カナも上がって来た自分の前の画面を見つめている。

「地球人が送り込んだロボットを見せてあげよう」

To Be Continued

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2014/11/10

世界の向こう-火星-

「ほんとうに、もう、マーズへ?」と心の中で言ったミナだったが、どれくらいの時間がたっているのかは漠然としていて分からなかった。

これは夢ではないのだ。それにしても、エイリアンの世界のことはほとんど分かっていない。悪いようにはしないと言っても、当初はカナを連れて行って人体実験をしようとした。上からというか、組織の命令みたいなものがあってやっているのではないのか。本で読んだところによると、彼らは生殖能力がなくなり、人間の女性を利用して新たな生命を誕生させようとしているのではないのか。だとすると、そんなに簡単に方針を変更するということができるのか。それともこのエイリアンは、仲間を裏切って行動しているのか。

と、画面の右側に黒い物体が飛んでいる。これだけはっきり見えるということは、ここは完全に火星の昼間なのだろう。カナがミナの方を見た。丸く見える黒い物体はいくつも飛んでいる。地球で言うUFOなのだろうか。前方の窓の方を見ると一面に赤茶色の大地がつづいている。

「画面のまん中を見ていなさい。キミたちの目にははっきりと見えないかもしれないが、あの変な機械のようなものが人間がマーズに送り込んだロボットだ」

エイリアンの思いが伝わってきてすぐに、画面の中央に小さな金属の固まりのようなものが見えた。

「あれは、ローバーのキュリオシティ・・」ミナがささやくように言った。

「キュリオシティ」ということばにカナが反応してミナを見たが、早く地球へ戻りたい、と言っている。

そうね。ほんとうに無事に早く地球へ戻りたい、とミナはうなずく。

「キミたちは、やはり地球人だね」
前にいるエイリアンの思いが伝わって来た。

To Be Continued

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2014/11/13

世界の向こう

中国語の技術翻訳などの仕事があればと思い、春利はハローワークで失業給付の手続きを済ませた。ネットビジネスと言っても簡単には行かないと思ったので、小中学生相手の家庭教師や学習塾のようなことも考えた。とにかく収入につながるものはなんでもやってみようと思った。

賀茂川沿いに歩いた日の翌朝5時前に同じ賀茂川上流の遊歩道に降ろされた・・

スマホで生徒の母親と話し終え、春利はパソコンの電源を入れた。住まいの団地に近い地下鉄駅周辺に期限付きで誰でも貼れる掲示板が複数あったので、募集案内をした。中1男子の母親から、同じ団地内に住んでいるが息子がやりたいと言っているのでと問合せてきた。

ミナからのメールがパソコンの方にも入っていた。数日前電話工事も終わりインターネットがつながったので、ミナにその旨伝えておいたが、賀茂川上流の遊歩道に彼らが降りてきて教え子と一緒にエイリアンの乗り物で火星に行ってきた・・。

スマホのメールよりだいぶ詳しく書かれている。

にわかには信じがたいが、ミナの言うことを信じないわけにはいかない。ネット上の動画や映画や小説では見聞きしていたが、いわゆるUFOに乗って火星の上空まで一日で行ってきたと書かれている。返事が来ないので、両方に送ったのだろう。スマホでは、問合せの内容に意識が行っていたのとメール内容が曖昧だったが、外出先からスマホから入力したのかもしれない。

それにしても、ミナは冷静だ。予知していたのかもしれない。リモートビューイングの能力が一般人より優れているのだ。春利は、自分がそうしたことに遭遇したらどうだったろうと想像してみた。

どの空間を通ってどのくらいの速さで、また時間の感覚はどうだったのか。乗り物内には充分な酸素があったのか、宇宙服とか酸素マスクを付けなかったのか。火星の上空は、火星はどんなだったのか、二人とも怖くなかったのか、次つぎと疑問がわいてきた。

To Be Continued

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2014/11/20

世界の向こう

「早乙女さんも大変な体験をしたんですね」

「わたし、こんなことも起きるんではないかと思っていたんです。これまでの経緯から」

新横浜の駅ビル・キュービックプラザのコーヒー店で、二人は向かい合って座っていた。ミナが「のぞみ」で新横浜駅に着いたのは朝の10時前だった。2日前に連絡を受けた春利は、午後3時くらいまでだったら大丈夫だとメールを返した。

その日、パンと牛乳と野菜で簡単に朝食をすませ、地下鉄で新横浜へ出た。

「沢さんの方は、どんなですか?」

大変なことに出くわした後にしては、ミナは、春利のことにまで思い及ぶ余裕があることに驚いた。

「中国語関連のアルバイトもネット上でヒットしたけど、都内でも僕のところからは遠すぎて。正社員で働くのは当面やめて、何かネットビジネスでやっていきたいと思ってるんです。でも、すぐには出来ないから、アルバイトでつないで行こうと思って。それで、子供たちに学校の勉強を教える塾みたいなものをと思い、周囲の掲示板に貼り紙をしたところ、この時期、タイミングが良かったのか、小中学生が何人か集まり自宅で始めたんです。近場の塾でも週二度、午前中で、春期講習ということでやっています」

「それで、午後3時までならと」

「ええ、今日は。春休み中なので、明日は、午前中もありますよ」

「準備とか結構忙しいでしょう?」

「いや、早乙女さんのように大学生相手ではないので。それでも、デスクとかコピー機とかホワイト・ボードとか買い込んで、必要最小限のものは急いでそろえたんです。まあ、団地のリビングを利用してですから大したことは出来ませんが」

「生徒さんはどれくらい?」

「僕の家での生徒は、帰国して急なことでしたから。新中1と新中2生3名ずつと新小4が4人ですね。同じ団地内の子もいるけど、比較的近隣からの子もいますね」

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2014/11/23

世界の向こう

「エイリアンについては分からないことだらけだけど、どんな種類の・・」

「沢さんは直接会ってはいないと思うけど、主にコンタクトというかテレパで思いを伝えて来たのは、沢さんにコンタクトしてきたエイリアンと同じひとだと思うわ」

「じゃあ、上海の僕の公寓で、上空から聞こえてきたあれですね」

「私はいくども。でも直接会ったのは初めてだったけど、背の低い、人間に似ているというか、目はとても大きいけれど、宇宙服を着ていても体は人間の子供のような感じで、怖いけれど親しみもあるというか、悪いエイリアンではないかもしれないわ」

「早乙女さんは特別ですよ。それで、一緒にいた生徒の・・」

「渋江カナさん。カナさんはアブダクションされそうになった経験があるから、余計そうだと思うけど、ずっと怯えていたわ。理工学部の1年、もうすぐ2年になるけど、英語は必須だから私の授業とっているのね。子供の頃にUFOを目撃したって言ってたわ」

「ふつうは、実際エイリアンに遭ったら、死ぬほど怯えると思うけど。それで、どんな乗り物だったんですか?」

「賀茂川の上流の遊歩道を二人で歩いていた時だったけど、雲の中から突然現れて、でも彼らには逆らえないって思って覚悟を決めたの。6、7メートルくらいのお皿を伏せたような格好で、あっという間に中へ吸い込まれ、機内では酸素マスクとかつけないでふつうに呼吸できたわ」

「それで、中には別のエイリアンがいたんですか?」

「ええ、あのエイリアンのほかにもうひとりいたわ。操縦席のような所に座っていた」

「それで、この我われに見えている空間を火星まで飛んで行ったんですか?」

「たぶん、この空間から別の空間へ瞬間移動したんだと思うけど、窓の外は、何もないというか、ベルトをするように言われ、不思議なトンネル内にいるような。地上に下ろされてから気づいたんだけど、腕時計も止まっていたわ」

「腕時計が止まっていた・・」

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2014/11/28

世界の向こう

春利は透明ガラスの向こうに目をやる。エスカレータで上がってくる人の顔が次つぎと変わっていく。地球に生まれ、地球で生活している人びとの顔。

春利の視線を見てミナも透明ガラスの向こうに目をやる。

「私はここに来たのは初めてだけど、いつか来たような気もするわ」

「このビルはまだ新しいと思うけど、出来たころは僕は名古屋にいたから」

「沢さんは横浜で生まれたのよね」

「ええ。国際競技場の方へは行ったけど、ここは、新幹線の利用が主だったから。それにしても、駅周辺はすっかり変わってしまった」それより変わっているのは、彼らの世界だ、と思う。

「不思議なのは、早乙女さんがすごく冷静なことです」

「そうかしら。わたし、私たちの天の川銀河の中だけでも、さまざまな生き物がいるっていう方が、自然だと思うわ。ましてや、その向こうの宇宙には。この地球にだって、いろんな生き物がいるじゃない。人間の目に見える範囲だけでも」

「確かに、人間の肉眼で見えないものの方がはるかに多いとは思うけれど。実際に、別の空間から知的生命体が突然現れたら、今までの常識が揺らぐから・・」

「そうね。わたし、少しだけ予知能力というか、リモートビューイングの能力があるのかもしれないけど」

「それって、現代人にはない人が多いというか、使われないから影を潜めているというか」

「そうね。でも、これから、みんなの中に眠っている能力が目覚めるかもしれないわ」

To Be Continued

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