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2015年03月

2015/03/02

世界の向こう -ミナの誕生日-

5月に入り、その日の朝、春利はミナからメールを受け取った。9時前にメールが来るなんてどうしたんだろう、と思ったが、5月始めの連休で大学が休みであることを知った。

そこで、春利は初めてミナの誕生日を知らされ、ミナが5月3日で34歳になったことを知った。ミナが春に生まれたことは聞いていたが、あえて誕生日を確認することはしなかった。年上だとは感じていたが、いくつ上かは訊かなかった。春利は2月で31歳になった。春利より約3歳年上であることが分かったわけだが、一人っ子の春利は、ピンとくるものがなかった。

ミナのことを思う時、とても冷静で尊敬できる女性だということ、リモートビューイングの能力が備わっているひと、という漠然としたイメージの他に、来未やエイリアンとの不思議なつながりがあり、簡単には切り離せない縁のようなものを感じた。

春利はその日、午後1時半から4時半まで塾生の補講を予定していた。費用は取らないで学校が休みだから希望者があれば補講する、と訊いてみたところ、中2の3名と小4の4人が受けたいと言った。中2は英数で、小4は算数だけをすることになった。小4の子たちは親の希望か本人が希望しているのかは曖昧だったが、中学受験を考えているようだ。

補講の準備があったので、春利がミナにメールしたのは補講が終わって30分ほどしたときだった。誕生日祝いを贈るにしてもタイミングが悪いし、春利もミナから誕生日祝いをもらってはいなかった。二人ともそうした行為から離れているというか、別のところへ思いが行っていた。

春利は冒頭で、おめでとうを言い、ミナの教え子のことにふれた。渋江カナが囚われているという想念。アメリカの連邦機関が以前そうしたことを発表して間もなく取り下げたという真偽不明の記事を誰かのブログで読んだことを思い出した。

もう一つの惑星が太陽を間にして点対象の位置にあることが分かった、というような記事。それがもう一つの地球。地球がもう一つあれば、月もあるのだろうか。よく言われる別次元のことだったら、一般人には見えないから、それはそれで良いようにも思われるが、この同じ次元でもう一つの地球が存在するとしたら、もう一人の自分も存在する可能性もあるのだろうか。

メールをし終えた春利は、家を出て地下鉄駅に向かった。

To Be Continued

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2015/03/09

世界の向こう-もう一人の自分-

春利が下車した駅は新横浜だった。ミナと会った駅ビルのフロアへとエスカレータが上がっていくのがすぐ側に見える。陸橋から階段へと人の流れに合わせて春利も駅から遠ざかりながら移動して行く。

連休だから人出が多いのだろうか。エレベータはいつ出来たんだろうかと、左手で待っている年配者の人だまりを見て思う。

階段を下りていくと、この方向に歩くのは何年振りだろうかと懐かしさがわいてくる。幼いころの微かな記憶が途中で途切れる。

国際競技場はスタジアムと名前を変えているが、同じ位置に巨大な姿を現している。スタジアムでなく、下の方に見える広い公園に行ってみようと思う。

「地球が二つある」というミナからのメールのことがふいに思い出される。

葉桜の道から、川を横切る綺麗に舗装された広い通りを歩く。鯉が泳いでいるのが見える。通りの中央に、等間隔の高いポールが建っている。通りの突き当りには円形の巨大なスタジアムの外壁が見える。

「地球が二つあれば、月も二つあるかもしれないし、もう一人の自分がいるかもしれない」という思いが春利の脳裏に浮かぶ。

太陽をはさんで点対象の位置にもう一つの地球があるという思いに取りつかれたというミナの教え子。カナというその子は理工学部に籍を置く学生だという。

スタジアムの周りをぐるりと巡り、広いコンクリートの通りは続く。近いようで意外と向こうなんだ。前方からリードを手にちょこちょことやって来る女性がいる。白地に黒い部分が目立ち、絹のように細い被毛が揺れている。小さな体にしては大きな黒い目。春利の方を見ている。

「もし、その地球にもう一人の僕がいたら、その人が何らかの原因で亡くなれば、僕はどうなるのだろう」

すれ違ったChin(狆)がふり返ってこちらを見た時、春利は背筋に冷たい旋律が走るのを感じた。

To Be Continued

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2015/03/18

マリア現る

急な石段を下り、スタジアムの下に広がる新横浜公園に入る。鶴見川の遊水地を利用しての公園で横浜市では一番広いと聞く。

中央広場へ向かう広い通りの脇には花壇が続き、色とりどりのパンジーが咲き乱れている。左手の広いフィールドで男女別れてトラックの周囲を走りバトンを渡している。高校生だろうか、と敏捷な動作を目で追いながら春利は思う。

中央広場を抜け、前方の頭上を走る車の列を眺めながら橋の下へと歩を進める。右手の広場でスケボーの激しい衝撃音が木霊している。左手では中学生くらいだろうか、バスケットボールをやっている。これだと雨の日でも大丈夫だ。第三京浜へとつづく道路の下をうまく利用していると感心する。あたりが少し暗くなるのを感じて西の空に目をやる。太陽は雲間に隠れたが、日没の時間でもある。

犬の散歩に来ていた家族連れが別れの挨拶をしている。家族がつづいて来る先にはドッグランがあるらしい。トイレに立ち寄ってから、一面芝生で被われた草地広場を横切り、広場の外れにある丸い池、そして向こうに見える細長い池の方へ行ってみようと思う。

帰り始める家族とは反対方向へ春利は芝生を踏んで歩く。来未のことが一瞬脳裏に浮かび、しばらくして、今度は目をつむった瞑想顔のミナの姿が浮かぶ。

春利はふと我に返った時、細長い池に近いベンチに横たわっている自分に気づいた。丸い池の鯉の群れを眺め、小さな橋を渡り、どこまでも続く細長い池を見ようとそちらへ向かった。池にいる1羽の白鷺を眺め、水上の鴨の群れを目で追い、広大な公園を巡る舗装された路の芝生側に並ぶ背もたれのないベンチに腰を下ろした。体を横たえ上空を仰ぎ、大きな綿雲が移動して行くのを眺めていて眠ったのだ。辺りは薄暗くなっていたが、スマホで時間を確認すると20分位眠っていただろうか。

もう、その辺りには人影がなかった。そろそろ帰ろうか、と立ち上がろうとした時だった。誰かが呼んでいるような、不思議な感覚にとらわえた。いつかどこかで似たような感覚があったような気がした。はっとして上空を仰いだ。

To Be Continued

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2015/03/20

マリア現る

いつの間に現れたのか、そこには黒みがかった綿のような大きな雲が横たわっていた。

右手の池の向こうには造りかけの陸橋が見えたが人影はなかった。春利のベンチの周辺は芝生が広がり、転々と葉桜や常緑樹の立木があり、周囲を巡る路の左手には金網で囲まれたグラウンドが見えるが、そこにも人影はなかった。

春利の目は順応していたが、辺りは春利が感じているよりは暗くなっていた。後から確認すると、春利は腕時計の針を1時間見誤っていた。

ヒュンヒュンという唸るような音が上空からしていることにその時春利は気づいた。

「誰か、僕に、何か言った?」春利は上空を見つめていた。

「気づきましたか。私があなたの前に現れたのは2度目です」

「あなたはいったい誰? 雲の上にいるんですか・・」

「そうです。人間の目につかないよう、わたしの乗り物はこの大きな雲の上にいます」

「2度目だと言ったけれど、いったいあなたは誰ですか?」

「あなたの部屋に行ったことがあります」

「僕の部屋に・・。もしかして、直接ではなくて・・」

「そうです」

「マ、マリア・・」名古屋で会社に勤めていた頃、アパートのパソコンの画面に、大きく映し出されたことがあった。来未ともそのことについて話した。あれは、やっぱり、夢ではなかったんだ。画面のマリアは深い眼差しで春利を見つめていた。そしてあの時、マリアの二つの目の端から涙がこぼれて頬を伝って落ちた。

「わたしはあの時、あなたの未来に起こることを告げたかったのです」

「僕の未来? それはもしかして」

「そうです。しかし、それを伝えることはできませんでした」

「あなたは、あの地震が起きることを、そして、来未が津波にさらわれることを知っていたと・・」

「そうです」

「あなたは、神なんですか?」

To Be Continued

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2015/03/24

マリア現る

「地球の人の中にはそう言う人もいます」

春利がそこまで受け止めた時、雲が割れ、上空に浮かぶ物体がわずかに現れた。丸い縁の側に窓があり、向こうに人の顔と思われる姿が見えた。宇宙服のような何かを着ているのかもしれないが、女性の顔のように思われる。春利の立っている場所からどれくらい離れているか分からないが、こちらから見えるような技術を使っているのだろうか。これまで絵画や彫刻などで見てきた顔とは違っている。

それでも、20秒か30秒はその状態がつづいたが、やがて雲に覆われて見えなくなった。

あなたはそれを伝えるためにやって来た。一体あなたはどこからやって来たのか。現在この地球のどこかにいるのか、あるいは空飛ぶ乗り物から地上へ降りることはないのか?

「私はあなたの父が生れた地に近い所に生まれました。そう、私は日本で生まれました。あなたが思っている通り、私の祖父は別の星からやって来た者で地球の人が神と言っている存在です」

「僕の父が生れた近くで生まれた。・・」

「イナです」

「伊那盆地とか伊那谷がある・・」

「そうです」

「イナンナ・・」春利はイナンナという名を思い出した。

「この地球では、イナンナとも呼ばれます」

「イナンナ、イシュタール、マリ、マリヤ・・」

「そうです。この星では、さまざまな呼ばれ方をしています」

「それでは、来未のことを、それに、早乙女さんのことも知っているんですね」

「知っています」

「来未は今どこにいるんですか?」

To Be Continued

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2015/03/31

マリア現る

「クミはあなたがたの住んでいる空間から別の空間へ移動しました。だから、もう会うことはできません」

「われわれ人間は、肉体は地球の土に還り、魂は天に昇ると考える場合が多いのですが」

「それは、わたしの知っている世界とは少し違いますが、まちがってはいません。からだは地球の土となり、あなたのいう魂は別の空間へと移動して行ったのです。多くの人間は、生きたままでは、その別の空間へ移動できません」

「出来る人間もいるのですか?」

「いますが、とても少ないです。その人には、わたしの世界に近いものがそなわっています。それでは、お別れのときがきました」

春利がその意思を受け止めた次の瞬間、見上げていた雲の向こうの光の渦のようなものが一瞬にして消えた。視線を落とすと、あたりはすっかり暗くなっていて、等間隔で点っている常夜灯の明りだけが周囲を明るくしていた。

春利は常夜灯に照らされた立木がつくる影が延びている芝生の上を歩いた。すっと沈むような感覚が足下から上がってくる。上空の雲の間に星が見える。

先ほどまで立ち込めていた灰黒色の雲がなくなっている。いったい、どこへ行ったのだろう。上空を見回してもそれらしき物体は見当たらない。

コンクリートの坂道を登って行く。夢ではなかった。確かに、この僕に明確な答えをくれた。来未のことにふれ、早乙女さんのことも知っていると。

先ほど歩いて来たゲート橋が異星の橋のように思われる。眼下のフットボールパークの向こうをJRの電車が移動して行く。車窓から漏れるライトを頼りに車両数をカウントする。8両だと呟き、間違いなく地球にいるんだと自らに言い聞かせる。
まったく予測していなかった存在と意思を通じ合えたことを思い出し、大きな満足感に包まれる。

石段の向こうを走る車のサーチライトに胸が躍る。ここは地球。チワワを連れた女性の手にライトが光る。自転車が通り過ぎる。駅の周辺で食事をしていこうと思う。うれしさが込み上げる。

To Be Continued

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