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2015年04月

2015/04/07

マリア現る

駅に近い24時間営業の店で食事をした春利は、地下鉄を利用しないで歩いて帰った。40分ほどで住まいの団地に着いた。翌日も小中学校は休みで、自宅を利用しての学習塾はあったが、午後からだったので焦らずにすんだ。
現実に引き戻されるような妙な気持だったが、どちらも現実であることを受け入れて行かなくてはならない。

あの方は、今どこにいるのだろう。風呂に浸りながら春利は天井を見上げていた。伊那谷のどこかに洞窟のような所があるのだろうか。あるいは、ほかの国のどこかへ行ったのだろうか。あの方は別かもしれないが、アメリカ市民として暮らしている彼らは、スペースクラーフトと地球とを行き来していると、ネットで読んだことがある。

風呂から上がると9時になるところだったが、電源を入れておいたパソコンが急に唸りだした。スカイプで連絡する相手と言えば、父とミナくらいだったが、春利が上海から戻ってからは、父は固定電話か携帯に連絡してきた。

ヘッドフォンを着けながら春利の脳裏に一瞬ひらめくものがあった。

「なぜだかわかりますか?」
少し遅れて、パソコン画面にミナの顔が映し出された。

「もしかして・・」

「もしかして・・言ってみて」

「数時間前に、とても意外な方が・・」

「思い当たったのですね」

「やっぱり、早乙女さんには」

「ええ、その、やっぱりです」

「いきなり見えたんですか?」

「ええ、数時間前、沢さんが広い芝生とベンチがあるところで、上空を見上げている様子が私の脳というか眼前に」

「僕が意思を通じていた上空の相手は誰でした?」

「日本ではマリア様と言われているお方」

「早乙女さん! ミナさんには、そこまで見えるんですね。そうだ、あの方は、早乙女さんのことを知っていましたよ」

「沢さんが意思を通じていたことが、私にも届きました」

「早乙女さんには、ほんとうに特殊なものがそなわっているんですね」

To Be Continued

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2015/04/12

マリア現る

ミナとのスカイプでの会話は1時間ほどつづいたが、あまり遅くなると、明日の準備もあるでしょうからと、ミナの方から終わらせた。

話し終えた春利は、ミナの話でさらに昂揚してそれでは治まらないものがあった。夜の10時。メールをしてもすぐには読まれない可能性があるし、スカイプだと相手が電源を入れて用意していないと話せない。それ以上に直接話したい思いで春利は受話器をとった。

3度目のコールが始まる直前に受話器を取る音が伝わって来た。
「・・父さん、春利だけど。遅い時間にごめん。いま、大丈夫?」

「いいよ。今、風呂から出て、ちょっとパソコンを見ようと思っていたところだから」

「実は今日不思議な体験をして」

「あそう・・」

「父さん驚かないで」

「上空に何かが現れたとか?」

「父さん、どうしてわかったの?」

「いやね。春利の口調で、そんな気がしたんだ。それで、場所はどこ?」

「父さんも行ったことがある、新横浜公園」

「えっ、あの公園で。私もあそこで、空飛ぶ物体を見たことがあるよ」

「父さんも見たことがあるんだ。そ、そればかりではなくて、短い間だったけど、あの、雲の間から、窓が見えて、乗っているる・・」

「乗っているETI が見えた・・」

「そう。マ、マリアだって・・」

「な、何? マリア・・」

「そう。そればかりではなくて、父さんのことも、早乙女さんのこと、それに、く、来未のことを知っていた・・」

To Be Continued

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2015/04/18

マリア現る

「それは、大変なことだね。実は、数日前、茅野市の尖石縄文考古館へ行ってきたんだ。そこには、縄文のビーナスと仮面の女神の土偶が展示されていて見てきたところなんだ。それにしても、ほんとうにマリアが春利のところへ、空飛ぶ乗り物で現れるなんて、信じられないことだな・・」

「ほんとうに夢みたいなことだけど、確認するとそうだという意思が伝わって来たから。それで、そのあと家に帰って、今度は、父さんには話だけで会ったことはない人だけど、京都にいる早乙女さんからスカイプで連絡があって、僕が公園で遭遇したことを言い当てて来たんだ」

「以前、私が皆神山へ行った時に、そのことを知っていたとも言っていたね」

「そう、リモートビューイングっていうか、そうしたことが見える不思議な能力を持っているみたいで」

「人間には、本来そうした能力がそなわっているということをネットで観たことはあるが、その人にはそうした能力が生きているというか・・。聞いていて思ったんだが、その、縄文時代に、その方が世界中を飛び回っていて、日本では、八ヶ岳山麓から伊那谷、皆神山というふうに飛んでいたんではないかと」

「その方って、マリアのこと?」

「そう。春利も観たことがあるかもしれないが、縄文のビーナスと仮面の女神の土偶は、同一の存在で、イナンナとかイシュタールとか、この国では天照とか言われているが、呼び名は国や地域によって違っているが、それらって、みな同じ存在ではないかと私も思っているんだ」

「僕も、その動画は観たことがあるよ。世界各地で発掘された、土偶とかフィギュア、テラコッタの姿かたちには共通のものがあるから、同じ存在ではないかと思う。だから、いつごろからか分からないけど、あのリサーチャーが言っている存在は、伊那谷で生まれて、今でも世界を飛び回っているんではないかと」

「新横浜公園の上空に現れたそのマリアが、現在の縄文のビーナスであり仮面の女神・・」

「そう。あの存在がどれくらい長く生き続けるかは分からないけれど、少なくとも人間の常識を超えている・・」

「その点、私もそう思っている。何がどこまで人間と違っているかは分からないけれど、人間の常識を遥かに超えている存在だと思う。だから、春利が、そのマリアに会ったというのなら、そうかもしれないと」

To Be Continued

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2015/04/25

カナの行方

渋江カナが退院したことをミナが聞いたのは5月末だった。その日、大学から戻って間もなく、ミナは固定電話の受話器を手にした。カナの母からだった。ミナは一瞬ほっとしたが、続く言葉に戸惑った。大学病院の精神科に入院して2か月ほどで退院できたのは良かったが、今度は大学を辞めるという。

「それで、カナさんはどうするとか具体的なことを言ってますか?」

「ええ、海外の学校に留学したいと・・」

「出来れば、お力になれるかもしれないから、一度会って話したいと私が言っていたと、お伝えしていただけますか。ご本人が会いたくないと言えば、無理なさらないでください。メールの方が良ければそれでも構いません。カナさんは私のアドレスを控えていると思うけれど、念のために控えていただけますか・・」

母親の口調から、カナがいないのを見計らって電話してきたと思ったので、ミナは余り長くならないようにと思い、受話器を置いた。大学やミナのことを忘れて新たに出直そうと思っているかもしれないから、それとなく触れてもらい、こちらからは連絡しないから、気が向かなければそれでいいから、と付言した。

ミナが風呂から上がってスマホを見ると、カナからメールが入っていた。

母から聞きました。早乙女先生の都合が良ければ今度の日曜日に会って話したい、と言ってきた。留学の希望先は北欧の大学で、色々と調べているが、夏期講習に出て語学をやり、出来れば、9月入学したいと。

ミナは、独特の勘で推測していたが、カナの家庭には一般的でない事情があるのではないかと思った。母親のことは聞いていたが、父親のことには一度も触れたことがなかった。母子家庭なのかもしれないが、それにしては生活に困っている様子もなく、お金のかかる私立大学に通うのに奨学金を受けているようでもなかった。それに、母親も、カナが今度は海外の大学へ留学したいと言っていることに、特に困った様子もない。

「渋江さんの場合、厳密には、病気と言えるかどうか分かりません。人間、迷路のような闇の世界を覗き見ることがあるのではないでしょうか。妄想と言っても、何というか、別の空間に実在しているってことだって考えられなくもないし、ある一つのことにとらわれて、抜け出せなくなり、病気だと言われても、病気のようで病気でないというか・・」ミナは、カナが入院して1カ月以上過ぎた頃、大学病院の主治医・重富に再度会い、カナの様子を聞いた時のことを思い出した。

To Be Continued

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2015/04/30

カナの行方

日曜の午前10時半に家を出たミナは、いつものように地下鉄駅まで歩いていった。カナとの待ち合わせは勤めている大学方向へ一駅行った駅前だった。一度だけ行ったことがあるカフェだった。11時半から開店だが、日曜ということで適当な席がない可能性もあるため、待合せ時間を11時15分にした。カフェまでは3分くらいで行かれる。不定期に休みを取っているようなので、念のためにネットでチェックした。外観は白を基調にした建物だったが、食事しながら話すのには向いているのではと思った。

改札を出ると、カナは先に来ていた。明るい表情にミナほっとした。

「あら、ずいぶん早いわね。でも、今日は日曜だから、開店前に行っていれば席が取れるから良かったわ」

「わたし、早く目が覚めて、家にもいられなくて、ずいぶん早く来てしまったんです」

ミナは頷き、カナの肩にそっと手をかけてゆっくりと歩き始めた。日曜の昼頃はその辺りを歩いたことはなかったが、人通りが少なく意外に静かだな、とミナは思う。

「先生、まだ閉まっているようですね」
ミナが指さすヨーロッパ風の白い建物の前には、開店時間の案内板が出されていた。

「まだ、誰も待っていないようだから安心したわ。しばらくお店の前で待ちましょう」

「私、いろいろと調べて・・」

「じゃあ、もう退学を決心したのね」

「ええ、一週間以内には届を出そうと思っています」

「それは残念だけど、新しい道に進もうとしているから、私も出来る限り応援するわ」

「ありがとうございます。私、暗中模索だけれど、別の世界で・・」

しばらくしてドアが開き、中年女性が現れた。
「ああ、開店をお待ちですか?」開店案内の看板に手をやりながら訊いてきた。ミナが大きく首を縦に振り、しばらくここで待たせてもらいます、というと、中へどうぞ、と案内してくれた。なぜか北欧調のインテリアが配置され落ち着いている。ミナは、厨房ご主人・接客奥様、というネットでのコメントを思い出す。

「今日は私が持つから遠慮しないでいいわ。私はネットで調べて、和風パスタ・ランチにするけど」窓側の席に向かい合って座ると、ミナはメニューをカナに渡した。アットホームなカフェの雰囲気にカナも口元をほころばせた。

月替わりのプレートがおすすめで、メニューが季節に合わせて変わることをミナはネットで改めて確認してきたが、 御主人はイタリアで修行してきたのか、パスタもたくさん種類がある。カナも初めてだけど、和風パスタ・ランチにしてもいいかという。ミナは指でOKサインを送る。ミナは奥様に声をかけた。

「それで、カナさん、留学となるとお金がかかると思うけど・・」

To Be Continued

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