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2015年10月

2015/10/03

夢と別な空間

乗り越した地下鉄駅で降りた春利は、池の横の舗装された坂道を上って行った。7時になるところだったが、曇り日の昼間ほどの明るさはあった。広い岸根公園内には樹木が多く、それが訪れる人の心に安らぎを与えてくれる。

一面芝生で被われた園内で一番の広場の横に差しかかった時、春利は上空に照明弾の様な不思議な物体が現れた日のことを思い出した。

甲斐犬を連れた大学生風の女性が側を走って行った。舗装された外周をランニングする人がつづく。自転車をこぐ高齢者がそちらから春利の方へ向かってやって来て通り過ぎた。時計回りの人もいれば、反対回りの人もいる。冬だったら真っ暗で誰もいない時間だと春利は思う。

樹木の側の空いているベンチに腰を下ろした。一駅乗り越しても、広い公園内を通って徒歩で帰ることが出来るのはラッキーだと思う。

と、腰から外して膝の上に置いたウエストバッグからコール音が聞こえた。

「父さん、どうしたの?」

「昼過ぎにうたた寝してね。春利が、どこか見知らぬ地にいたんだ。別な空間だといいけど、もしも体ごと持っていかれては、と気になってね」

「大丈夫。塾が休みなので、あの、早乙女さんと横浜西口で会って、今は帰るところ。一人で公園にいるよ」

「岸根公園かい?」

「そう。父さんよく分かったね」

「いや、春利の家の近くといったら、その公園ではないかと思っただけさ」

「あそう。見えたのかと思った」

「今回は違うよ。どこか別の星でなくて良かったよ。笑うかもしれないけどね」

「笑わないよ。それで、その夢では、どこかの星に僕がいたの?」

「うん。地球とはちょっと違うって、目覚めてから・・」

「そうなんだ。とにかく今は地球の日本の岸根公園だから大丈夫」

「良かった。笑われるかもと思ったが、気になってね。こんな時代だから」

To Be Continued

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2015/10/09

夢と別な空間

公園でも変わった世界が見えなくてほっとした気持ちで家に向かった。

帰宅して、翌日も塾は休みなのでパソコンで動画を観て風呂に入った。夜中の12時になるところだった。ミナも両親のいる生家に
いるだろうと思った。湯船につかっていると、ふいに谷川良治のことが浮かんできた。

谷川のあの顔と声。小学生ではなかった。夢なら、小学生のときの良治の顔が浮かんでくるはずなのに。春利は、ミナと話している時もそのことに気づかなかった。

どうしてなんだろう。夢の世界と別の空間がミックスしていた。大人の谷川良治の顔、声も子供ではなかった。地球上ではなく金星の地下の・・。

そうか、その前に、別の空間で谷川良治と会っていたんだ。すっかり忘れていた。あの時はカナさんが傍らにいた。そうだった。だから、現在の谷川良治の顔だった。あの時は谷川良治だとは気付かなかった。日本から来たとあの谷川良治の意思が伝わって来た。リョウジ タニカワは地球からやって来たと金星人の女性が伝えてきた。それでも僕は彼が小学生のときにいなくなった谷川良治だとは分からなかった。分かったのは、早乙女さんから指摘されてだった。

風呂から上がった春利はすぐに寝る気にならなかった。ソファに身体をあずけクーラーはつけないで団扇を手にした。団扇には日本男子のサッカー選手がプリントされていた。しばらくあおいでいると団扇が春利の手から落ちた。

「今度はわれわれの乗り物で行ってみるか?」

「えっ? だれ?」

「これまでいくどか話したことがある者だ」

「これまで、いくどか?」

「そうさ。シャンハイでも」

「シャンハイ・・」

「これ、夢だよね」

「・・・」

To Be Continued

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2015/10/16

夢と別な空間

遠くの方で、まだ塾は休みだからという安心感があった。

春利が家を出た時には辺りはもう明るくなっていたが、時間はまだ5時前だった。半ば催眠術にでもかかっているような状態だったが、足は昨日通って来た岸根公園へ向かっていた。新聞配達の原付とすれ違ったが、歩道を歩く人の姿はなかった。夢であるなら戻ればいいと自らに言い聞かせた。

車止めのポールが並ぶ公園の入口へ来た。舗装された広い道の向こうには広大な芝生が広がり、ところどころに背の高い樹木が点々と茂っている。桜の古木の横に自転車があり、ベンチから立ち上がった老人が体操を始めた。

誰もいないところが良いだろうと、春利は芝生を突っ切り向こうに小さく見えるベンチを目指した。意識はぼんやりしているが、それが夢ではないという自信があった。

樹木の間に置かれているベンチにたどり着いた時には額に汗がにじんでいた。腰掛け、突っ切って来た広い芝生の向こうに眼をやると、先ほどの老人の姿は見当たらなかった。

「私は今まであなたといくどかコンタクトを取っている。朝早く公園に行きなさい。見せたいものがある」

夢かどうかは分からなかったが、言おうとしていることがは直感できた。公園とはあそこで、いくどかコンタクトを取っていると言ったら、シャンハイでのあの存在に違いない。

ベンチに座ったまま恐るおそる上空に眼を上げた。ところどころに綿のような雲の固まりがあった。上空から、誰かいるかどうかは彼らにはすぐ分かるに違いない。

と、いつの間に現れたのか、雲のすぐ近くに淡い銀色の点のような何かが見えた。飛行機でもヘリでも鳥でもないことは春利にも分かった。

点が次第に大きくなり、ゆっくりと移動しながら辺りをうかがっているように春利には思われた。目を下に落とし、広い公園を見回したが人の姿はなかった。

次の瞬間、淡い銀色の物体がすっと真上に降りて来たかと思うと、春利の身体がとつぜん宙に浮きあがり、気づいた時には、不思議な乗り物の中にいた。

「これから、キミを、キミたちが縄文時代と呼んでいる世界に案内する」

To Be Continued

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2015/10/23

夢と別な空間

春利は気持ちが動転して朦朧とした状態だったが、指示された椅子に座った。

「直ぐだが、そこのベルトは必ずしめなさい・・」春利は指示された通りにして金属製のようなベルトを締めた。

「夢ではなかったんだ」

「夢ではない。私があの公園へ行くように伝えたんだ。頼まれてね」僕の思ったことが相手には分かるんだ。

「今、頼まれてと?」

「ある方に頼まれてね。キミも知っている方だ」

「僕も知っている?」

「そうさ。別な公園で話したことがあるだろう」

「別な公園・・。しんよこはま公園?」春利の意識が少し戻って来た。

「そうさ。さあ着いたよ。ただし、キミが住んでいた世界とは違うが」

「僕が住んでいた世界とは違う?」

「そう。キミたちが、過去と呼んでいる世界だ」

「えっ? 過去・・。タイムトラベル?」

「そうだ。後で元の世界へ戻してあげるから心配しないでいい。さあ、ベルトを解除するからそこに立ちなさい。足元が開き、下へゆっくりと降りていくが大丈夫だ」

「その前に、これからどの世界へ行くのか教えてほしい」相手は先に春利に行く先を告げたが、春利にはそれが記憶されていなかった。

「キミたちが縄文時代と言っている世界だ」

「えっ? 縄文時代・・」

「そう。そこで、あの方と直接会って話すことが出来る」

「・・・」

To Be Continued

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2015/10/27

夢と別な空間

春利は身体が降りていくのを感じていたが、それはこれまで体験したことのない感覚だった。ただ、あがいてもどうにもならないだろうという思いだった。

気がつくと、春利は山の中のような所にいた。向こうの方にススキかヨシで出来ているような家が点在している。人と思われる姿もも複数見える。

「ここはどこだろう?」上の方に目をやったが、靄がかかっているようで何も見えなかった。「僕は、あの乗り物でここへ連れて来られた。そうだ。僕はあの方に・・」

「ここがどこか分かりますか?」 

「えっ! 今のは?」

「あなたの後ろ」

春利は意思が伝わって来た方へ恐るおそる目を向けた。そこには、何かに腰掛けているような不思議な姿があった。

「私が、あなた方がマリアと呼んでいる者です。あなたとは、あの公園の上空から話したことがあります」

春利は、意思が伝わってくる存在を確かめるように見回した。全身が何かで被われている。仮面のようなものの中に、眼のような二つの点を見つけた。

「あ、あなたがマリアさま・・」

「そうです。あなたのお祖母さんは信仰のあつい方でした」

「僕の、父のおかあさんのこと?」

「そうです。あなたは会ったことはないでしょうが」

「ええ。マリアさま。そ、それで、ここはどこですか?」

「私があなたをここへ案内したのは、当時の世界を見せてあげたかったのです。現在のこの国の人々は、この国のことをほとんど知りません」

「それでは、ここは日本なんですね」

「そうです。ここが、あの縄文時代です」

「ここが、縄文時代?」

「ええ。あなたの先祖が住んでいた縄文時代」

「では、あそこに見える人は縄文人?」

「そうです。ただ、こちらからは見えても、向こうからは見えません」

「どういうことですか?」

「別な空間です」

「じゃあ、タイムスリップして縄文時代へやって来た」

「ええ。私たちにはごく自然なことでも、あなたがたにはまだ・・」

To Be Continued

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2015/10/29

夢と別な空間

春利は広い芝生の中央に立っている自分に気づいた。辺りは薄暗く人の気配はなかった。

どれくらいの間そうしていたか分からなかったが、いくども周囲を見回しているうちに、次第に記憶が戻って来た。振り返ると20メートルほど行った所にベンチが並んでいた。ふーっと息を吐き出しベンチへ向かった。朝でないことは光線の具合で分かった。腕時計を見ると、アナログ時計の針は、5時を回ったところで止まっていた。

「いつもの公園。僕はここからあの乗り物で・・」

広大な芝生を巡っている周回路を数人の若者が駆けていった。その姿を暗闇の中で追っていると懐かしい気持ちが湧いてきた。

僕は、あの方と一緒に縄文時代の上空を飛んでいたのだろうか。案内する、というあの方の意思が伝わって来た。・・そして、僕は上空にいた。湖があった。八ヶ岳山麓一帯。どこかで見たことがあるような集落。点在する家々。何か作業する人々の姿が小さく見えた。遠くの山々の稜線が見えた。眼下の緑に種類がありとてもきれいだった。

恐るおそる空を見上げると星が出ていた。途中で記憶が飛んでいるように思われるが、夢ではないという実感がある。

「帰らなくっちゃ」

芝生を横切り、家の方へ歩きながら途切れている記憶を呼び戻そうとしていた。バス通りの信号前に出た。トラックが通り過ぎた。常夜灯や人家から漏れる明りを見ながら今何時頃だろうかと思う。ポケットに手を入れ、スマホは持って出なかったのだろうか、と記憶をたどるが思い出せない。

最初に僕を連れて行ったのはあの方ではなかった。前の操縦席のような所に座っていたのは、アンドロイド・・。どの辺りで、縄文時代へ入ったのか。あの方と居たのはずっと縄文時代なのか。ただ、言われたとおりにしていたという漠然とした記憶はあるように思う。縄文からここへ戻る間に僕の脳が停止してしまったのか。今は、これ以上考えないようにしよう。

それにしても、あの方は仮面というか、宇宙服というかで被われていた。春利の脳裏に、八ヶ岳山麓で発掘された仮面の女神と縄文の女神の姿が交互に浮かんできた。

春利は、幹線道路の歩道を歩いていた。まもなく春利が住んでいる集合住宅へとつづく横道が現れる。

To Be Continued

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