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2014/06/16

希望

桑田荘太の生活は生活保護を受けるまでには至っていなかったが、楽ではなかった。ただ、桑田の心の奥には心を支える存在があった。長い苦しみの後に出会った存在だったが、その言葉は彼の心をとらえ癒した。小学校低学年で実母の死を経験しなければキリストを知らないままだったに違いないと桑田は思う。

その信仰とは別に、ここへ来て彼に希望を与えてくれる存在が現れた。それは妻・さなえとの離婚によって別れることになった一人息子の春利だった。春利が5歳になって半年たたないうちに、桑田は3人で同居していた横浜の公団住宅を出て行かざるを得なくなった。

桑田は妻も息子も愛していたが、家族を養うだけの仕事に恵まれなかった。別れる前、あんたなんか紐じゃない、と、さなえにののしられた。子供の頃からどちらかというと病弱でもあったが、欲がないというか、根性がないと言われても仕様がなかった。

桑田はスタジアムへつづく西ゲート橋の中ほどの欄干に手をかけ、眼下のサッカー場へ目を向けていた。そこで行われている子供たちの試合を追っているわけでもなかった。8月の下旬で、午後6時を回っていたが、陽射しが暑く眩しかった。

今となっては、この場所が春利との唯一の思い出のエリアだった。インターネットをしていたことでフェイスブックを知り、25年も連絡を取れなかった息子と連絡が取れるようになった。メールで互いの写真も添付して送り合ったが、上海にいる春利とスカイプで互いの顔を見ながら話せるようになった。別れた妻・さなえには先立たれたが、今となっては息子・春利が桑田の希望だった。

サッカー場の向こうは草で被われた広い土手になっていて、つづく畑の向こうを横浜線の8両編成が横切っていく。

To Be Continued

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