eye

2014/07/06

久ノ浜にて

二人は左手の海と右手の基礎部分だけが残った草の生えた平地に交互に目をやる。

しばらく無言で歩いてから、春利は左手をふり返る。震災で一部崩壊したという赤茶けた殿上山の山肌が見える。あの向こうに久之浜漁港や破壊された漁業組合の建物があるに違いないと思う。

コンクリートの防潮堤の上に瓶に挿された花がある。海はとても穏やかで空には白い雲が浮かんでいる。駅の方には建物が見えるが、二人が歩いている辺りはコンクリートの土台だけが残っている平地が広がっている。

砂浜に切り花が流れている。消波ブロックの塊に波が当たり一瞬白くなる。前方の防潮堤に鉢植えが並び周囲にも花が添えられている所が見える。春利は、思わずふーっと息を吐き出した。

「早乙女さん」春利はちらりとミナを見て、そこへ向かって早足で進む。

ミナも頷いて足を早める。

二人はその前に立った。添えられたばかりと思われる花束もある。ここを訪れる人びとはみな慰霊の思いにかられ献花していったであろう。

手を合わせ、深く頭(こうべ)を垂れた。ここに来るのが遅れたことを、状況が分からずに一輪の花さえも持参しなかったことを春利はわびた。前方の穏やかな海からは当時の様子は想像がつかない。海はすぐそこで防潮堤も高くない。

それにしても、これだけ海に近い所に住んでいれば、漁には好都合だが、大津波が来れば人家はひとたまりもない。春利もミナもそう思ったが、互いに口には出さなかった。久ノ浜駅の案内板には、標高5.9mと書かれていた。

「あそこに」ミナがそう言って指さす前に春利も気になっていた。右手前方に朱い鳥居と祠らしきものがある。他に建物がないので一際目立った。

「じゃあ、あそこでお参りして帰りましょう。早乙女さんはこれから京都に帰って明日は仕事ですからね」

「すみません。もう少しゆっくり出来たら良かったのですが」

「いえ。僕も、ずっと気がかりでしたが、早乙女さんのおかげで来る決心がついて感謝しています」

「それで、沢さんは日本には」

「ええ。今回は遅い夏休みといった感じで、名古屋には行かず、川崎の親せきの所に4日ほどいてから上海へ」

「それじゃあ、少しゆっくり出来ますね。今度良かったら京都にも」

「ええ、お邪魔するかもしれません」

To Be Continued

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