eye

2014/10/31

世界の向こう

春休みには2月半ば過ぎから入っていたが、ミナはいつものように採点に追われていたので、上海から帰国した春利にメールを送ったのは3月に入って一週間ほどたってからだった。休み中に一度は武蔵野の両親のところに顔を出そうとは思ったが、月末頃にと漠然と思っていた。5月になれば34歳になる。

春利からは、もう少し落ち着いたらと返信があり、気にかかっている生徒のカナと会う約束をした。

午後2時、地下鉄鞍馬口駅で待合せたミナと生徒の渋江カナは、鞍馬口通りを歩いて賀茂川に出た。上流へと視線を送ると、凹凸の少ない北山の稜線が見える。この年の桜は例年より早く3月初旬から始まっていた。両岸のソメイヨシノは正にシーズン到来を告げている。ミナはカナの方にちらっと眼をやる。すぐ側の出雲路橋を渡れば下鴨神社へと道は続いている。
賀茂川に架かる出雲路橋からは、東に比叡山、南東に大文字山などを望むことができる。夏には五山の送り火が見られる名所でもある。

「カナさんが彼らの空飛ぶ乗り物から降ろされたのは、このあたり?」

「あの辺だったかと・・」カナは橋から数百メートル上流の対岸を指さして言った。

賀茂川沿いの遊歩道は広く、追い抜いて行くランナーがいるかと思えば、向こうから走ってくる人も見える。自転車でやって来る若者もいる。対岸を下っている複数の高齢者の姿がある。

二人は橋を渡らずに、川沿いに上流へと歩いていた。アオサギが川の上空を飛んでいく。川の両側に咲いている桜が妖しい興奮を喚起する。

10分ほどで北大路橋に着いた。もっと歩いてもいいとカナの目がいっている。対岸の紅しだれ桜が咲き始めている。
台風シーズンには水嵩が増して激流となるが、目の前の賀茂川は上流に行くにしたがって中州が多くなり、川に並べられた飛び石で対岸に渡ることも出来る。流量は少なくても川幅は広い。河川敷の草の上にヌートリアが警戒顔で辺りをうかがっている。二人が歩く川沿いの道幅も広い。

北山大橋、上賀茂橋と歩を進めると、群れを成しているカモや単独のシラサギに出会う。次の御薗橋と書かれた漢字を目にした時、ミナはオオサンショウウオが賀茂川の段差の所に現れたというニュースを思い出す。
 
To Be Continued

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