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2015/04/25

カナの行方

渋江カナが退院したことをミナが聞いたのは5月末だった。その日、大学から戻って間もなく、ミナは固定電話の受話器を手にした。カナの母からだった。ミナは一瞬ほっとしたが、続く言葉に戸惑った。大学病院の精神科に入院して2か月ほどで退院できたのは良かったが、今度は大学を辞めるという。

「それで、カナさんはどうするとか具体的なことを言ってますか?」

「ええ、海外の学校に留学したいと・・」

「出来れば、お力になれるかもしれないから、一度会って話したいと私が言っていたと、お伝えしていただけますか。ご本人が会いたくないと言えば、無理なさらないでください。メールの方が良ければそれでも構いません。カナさんは私のアドレスを控えていると思うけれど、念のために控えていただけますか・・」

母親の口調から、カナがいないのを見計らって電話してきたと思ったので、ミナは余り長くならないようにと思い、受話器を置いた。大学やミナのことを忘れて新たに出直そうと思っているかもしれないから、それとなく触れてもらい、こちらからは連絡しないから、気が向かなければそれでいいから、と付言した。

ミナが風呂から上がってスマホを見ると、カナからメールが入っていた。

母から聞きました。早乙女先生の都合が良ければ今度の日曜日に会って話したい、と言ってきた。留学の希望先は北欧の大学で、色々と調べているが、夏期講習に出て語学をやり、出来れば、9月入学したいと。

ミナは、独特の勘で推測していたが、カナの家庭には一般的でない事情があるのではないかと思った。母親のことは聞いていたが、父親のことには一度も触れたことがなかった。母子家庭なのかもしれないが、それにしては生活に困っている様子もなく、お金のかかる私立大学に通うのに奨学金を受けているようでもなかった。それに、母親も、カナが今度は海外の大学へ留学したいと言っていることに、特に困った様子もない。

「渋江さんの場合、厳密には、病気と言えるかどうか分かりません。人間、迷路のような闇の世界を覗き見ることがあるのではないでしょうか。妄想と言っても、何というか、別の空間に実在しているってことだって考えられなくもないし、ある一つのことにとらわれて、抜け出せなくなり、病気だと言われても、病気のようで病気でないというか・・」ミナは、カナが入院して1カ月以上過ぎた頃、大学病院の主治医・重富に再度会い、カナの様子を聞いた時のことを思い出した。

To Be Continued

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