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2016/10/15

新たな遭遇

新学期の授業が始まって二日たった。梨花には、早乙女ミナさんの都合に合わせて彼女が京都へ戻る前に3人で会おうと話していたが、武蔵野へ帰ったミナからは何の連絡も入らなかった。翌週からはミナも大学の授業が始まるから、数日のうちに連絡が入らなければ、今回は無理だろうと思ったが、春利から催促するのも躊躇された。ミナには生家の両親もいることだし、いろいろあるのかもしれなかった。

その日は土曜日で、春利の塾へ通っている生徒は皆週5日制授業を実施していたので、午前中に小学生、午後1時から中学生の授業を行った。夕食は自炊しようか迷ったが、最寄りの店へカレーセットを食べに行った。
「早乙女さんからは連絡がないので、今回は3人で会うことは無理だと思う。生家の両親も若くはないのでいろいろあるのかも・・」ラインでメッセージを送り、春利は店を出た。

帰宅した春利は緑茶が飲みたくなってガスコンロに点火した。7時になるところだった。カーテンに手をやり、日が長くなったと窓の向こうに眼をやった。しかし、その日は何故かテレビもラジオも点ける気が起きなかった。梨花はどうしているのか、送ったラインは未読だった。

ソファに掛け、お茶を一口飲んだが、いつの間にか眠ったようだった。目覚めた時は、8時を回っていたが、いつか経験したような気分になっていた。ああ、また来た、という感じだった。誰かが呼んでいる。春利は薄手のジャンパーを着て黒いキャップを被った。
抵抗する気は起きなかった。

ドアに鍵をかけ下へ降りて行った。呼んでいるのは誰か予測がつかなかった。幹線道路の歩道を行き、地下鉄駅前広場から別の車道の脇を歩いていた。車のライトが後ろから押して来たり反対車線からトラックがやって来るのが分かる。催眠状態ではないが、抗う気が起きないままなだらかな坂道を上っていた。

一人で来ることも多いが、ミナとも梨花とも会ったことがある公園。信号機のある横断歩道を渡たった。入口に車止めの金属ポールが並んでいる。舗装された広い路は急こう配で下り、前方には樹木に囲まれた広い芝生が広がる。常夜灯の明かりがところどころに影を落としている。柴犬の散歩を終えた青年が坂を駆けて来る。

一面の芝生を踏みしめ、春利は遠くに見えるベンチを目指す。やがて現われるであろう存在に胸の鼓動を覚える。広い芝生の切れ目に弧を描くように等間隔に並ぶベンチの一つにたどり着いた。

「前回もここだったな」座ってから春利は内心で呟き、塗料のはげたベンチの板に手を当てゆっくりと上空に眼をやった。

To Be Continued

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