eye

2013/08/01

福島からの手紙

来未の両親が会津若松からいわき市久ノ浜へ転居したこと、来未が地震が起きた時期に帰省したことで3人ともおそらく地震後の大津波に飲み込まれてしまったことを思うと、春利自身にも何か責任があるような罪悪感を覚えた。

来未が上海に来ていれば行方不明にはならなかった。レギンスが良く似合った来未の姿が浮かんできた。二人が互いの目を見つめあった瞬間。

来未と急いで結婚することにブレーキをかけたのは、経済的な自信のなさだけだろうか。両親が最後まで連れ添わなかったから、自分はそうでない人生を送りたい。そうした思いが逆に決断を先延ばしにしたのだろうか。母が病気で亡くなったことはどうにもならないことだったけれど、父はどこかにいるという漠然とした期待がある。

春利の脳裏に、自らの人生は奪い取られるように仕組まれているのだろうか、という思いがよぎった。

立ち上がり、居間のカーテンを少し開けた。公寓の15階の窓の向こうには別の公寓の灯りが並んで見える。真下を走る車のライトがゆっくりと移動していく。

なぜかテレビを点ける気が起きない。明日の仕事のためにも風呂には入らなくてはと浴室へ向かった。

生きて行くためには会社を辞めるわけにはいかないと思う。このまま上海でやっていかれるだろうか。来未がどうなったかは分からないが、連絡が取れなくなって一か月以上になることは確かな事実だった。

再度手紙を手に取り、来未の姉の連絡場所を確認した。電話をかけても、相手が出たらなんと言ったらいいか分からない。急に激しい衝撃が腹の底からこみ上げてきた。涙が頬を伝っている。

「奪われる人生・・」

それにしても、来未の姉・梨花に連絡をしなければ。
春利は寝室に利用している部屋に行き、小机の引出しから便箋を取り出した。


To Be Continued

Sponsored Links

コメント

非公開コメント